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連載「東京日和・見」G最終回
 アメリカの理想・ボールダーに見るまちづくり

写真右が木村民子さん。
1997年、デンマークの高齢者集合
住宅を訪問した際に撮影

 木村民子さん(「高齢社会をよくする女性の会」運営委員)


 東京は文京区千駄木に生まれ育って、住むこと半世紀になってしまった私。まだ若い?のに、町の古老のように「昔々、団子坂は石だたみで、ロバのパン屋さんが急な坂道で立ち往生しとってのぅ…」などと古い記憶がよみがえってくる。しかし、最近はなんとも味気ない町に変貌し、さびれてしまった。表通りは高層ビルやマンションが立ち並び、不況のせいか、老舗の店が成り立たなくなってどんどん消えていく。こんな町でいいのだろうか。経済優先の「まちづくり」でいいのだろうか…。

 10月の区の海外派遣でアメリカに行ったとき、イギリスのサッチャー元首相が「何て素敵な町なんでしょう」と絶賛したコロラド州ボールダーの市内巡りをすることができた。

 ここはロッキーマウンテンの懐に抱かれた高原にあり、コロラド大学のある学園都市でもある。有森裕子選手などアスリートたちが、高地練習のために住み着いている。人口10万人で平均年齢は29歳という若々しい町だ。ヨーロピアン風の町の美しい景観を保つために、20m以上の建物は許可されず、古い建物の保存も行き届いている。内部の改装は許されていて、しかも、1909年開業というクラシックなホテルの入り口は車椅子対応のバリアフリーになっていた。

 この町でわたしが注目したのは、シニアセンター(皆さんの影響かも)。ここは中を見学できたので、入ってみると驚いた。子供たちの笑い声が響いている。可愛らしい衣装をまとった子供たちの演劇公演が、中央の小ホールで始まるところだった。「うん?ここはシニアセンターのはずだけど」と怪訝そうな私たちに、世話係りの女性がにこやかに話してくれた。

 このセンターはいろいろな人に開放されていて、ことに週末などは子供たちの活動の場に利用されるという。この日はシニアセンターのスタッフも一人の若い男性だけで、彼は週末だけのパート勤務と言っていた。運営はNPOに任されており、食事サービスやデイサービス(ショートステイ)を行っており、かなり重度の人でも利用できる。

 充実していたのは、情報コーナーで様々な資料や広報が所せましと並んでいた。受け付けにも「ボールダー シニアサービス クイックガイド(早分かり一覧)」があったのでもらってきたが、その内容の丁寧で分かりやすいことにも感心。駐車場までの地図と注意、障害のある人への交通手段、食事などの利用料金、活動概要。健康に関する相談機関、社会活動、スポーツクラブ、旅行のお誘いなどなど。そして、最後にこれはボランティアの活動と資金で支えられているという説明。「あなたは何を提供できるか」という項目には、時間やお金、事務処理能力などがあげられている。

 残念ながらシニアの方たちの活動ぶりを見ることはできなかったが、私たち異邦人でもいつまでもいたいような居心地のよさを感じた。

 まちづくりの原点はやはり人だと思った。そこに住む人々がいかに快適に暮せるか、それは建物などのハード面だけではだめで、集う人々との交流やそれぞれの居場所があることではないか。一人一人を大切にする姿勢が人権意識にもつながるのだろう。

 私の町には森鴎外さんや高村光太郎・智恵子夫妻や、平塚らいてう女史、江戸川乱歩氏など、近いところでは岡本文弥さん、サトーハチロー先生や、吉本ばななちゃんなどが時を隔てて住んでいた。そういう愛すべき文人、芸人、変人、奇人がいた町の魅力は何だったのかを改めて考える時期かもしれない。町は人々の器なのだ。


木村民子さん略歴
 大学卒業後、出版社編集部(潮文社)勤務。現在、「高齢社会をよくする女性の会」運営委員等。「三井海上ライフデザインラボ」チーフディレクターを務めた。
 著書『私の一歩を始めたい』『女が素敵な子どもの本』
 


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