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連載「東京日和・見」D hideとこの国の異常
木村民子さん(「高齢社会をよくする女性の会」運営委員) 【NEW】
でも、私は、ロックバンドをやっている息子の影響で、hideがギターの名手であることも、X・JAPANが解散したあと、新曲のCDを出したことも知っていた。
hideの告別式の3日間は、斎場の築地本願寺界隈は一見してX・JAPANのファンだとわかるような黒ずくめの女の子たちで埋め尽くされた。そのファンの群れが隅田川の堤防まで延々と続いていると聞いて、驚いた。私は仕事の関係で以前よく築地に行っていたので、それは相当な距離だと直感した。連日テレビでは、抱き合って泣きじゃくる子や、呆然自失状態の子、暑さと疲れで気分の悪くなる子や、失神した子など、異常な光景が映し出されていた。後追い自殺の女の子が現れたため、緊急記者会見でYOSHIKIが「今ここで死んだら、hideが一番悲しむ」と涙ながらに訴えていたのも、異例のことだった。
献花に訪れたファンは五万人にも及び、国民的スターといわれた美空ひばりや裕次郎やトラさんの参列者数を凌いだという。私はhideの「ピンクスパイダー」の曲も好きだし、彼の才能も楽しみにしていたので、ファンの気持ちもわからないではない。でも熱狂的なファンの群れを見ると、複雑な気持ちにさせられた。
さて、その数日後、私は吉武輝子さんに口説かれて、「戦争への道を許さない女たちの会」のリレートークに参加した。「女性ニューズ」編集長の関千枝子さん、文京区議の永井よし子さん、ノンフィクション作家の山崎朋子さん、弁護士の福島瑞穂さんらそれぞれが戦争協力反対の表明をし、新ガイドラインに基く有事法制化の危険を訴えた。
有楽町マリオン前を行き交う人々に演説するのは、恥ずかしくもあり、高所恐怖症なのでトラックに乗るのも怖かったが、そんなこと言ってはいられない。私は、戦前母が朝鮮で教師として日本化教育に携わり、それをいまだに良いことをしたと信じている例をあげて、国民の純粋さや誠意や努力が悪用されることの危険を訴えた。何時の間にか戦争に巻き込まれても、文句が言えない体制が作られていくことを気づいて欲しいと力説した。入れ替わり、立ち代わり、私たちが熱弁をふるっても、道行く人は知らん顔。沖縄の基地反対闘争でがんばっている女性たちの身につまされる話にも、耳を貸す人は集会に集まった仲間だけ。これが現実なんだろう。足を止めて、賛成の拍手がここかしこで起こることを期待していた私が甘かったのか。もっとも、どうせちゃんと聞いてくれる人なんてあまりいないんだから、という開き直りで、私はトラックの上でもアガらなかった。
吉武さんか誰かがhideのことにも触れて、若い人たちのやさしさやナイーブな気持ちを平和のほうへ向けて欲しいとも言っていた。本当に、彼の葬式にあれだけの若者が集まって嘆き悲しむなら、せめてその一割でも戦争反対の声をあげて欲しいと思う。一人のミュージシャンの死を悼んでいられるうちは、まだ平和なのだ。それにしても、若者たちの関心やエネルギーが政治ではなく偏った方向ばかりに行ってしまうのも、恐ろしいことではないだろうか。
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