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なんでもシネマ(55) 

負けざる者たち


 1つの願いが世界を変える。フィクションの世界では往々にしてあることだ が、それが事実だとしたら。

 「インビクタス」の舞台はアパルトヘイト(人種隔離政策)撤廃後の南アフリ カ。27年間の投獄生活から釈放されたネルソン・マンデラは1994年、初の黒人大 統領に選ばれる。ところが、人種対立は続き、国家統一は程遠い。彼は翌年南ア で開催されるラグビーW杯を国民融和のチャンスと考える…。

 白人文化の象徴、ラグビーは、アパルトヘイトへの制裁で国際試合から閉め出 され、代表チームは弱体化していた。マンデラは黒人たちを説得してチームを存 続させるとともにキャプテンを官邸に招き、国を1つにするためにはW杯での優 勝が欠かせないと訴える。無謀ともいえる挑戦が始まる。

 マンデラを演じたモーガン・フリーマンが素晴らしい。「過去は過去。復讐す ることより赦しを与えることだ」という信念を貫いたマンデラをまさに体現して いる。クリント・イーストウッド監督とは「許されざる者」(1992年)「ミリオ ンダラー・ベイビー」(2004年)に続く共演で息もピッタリ。イーストウッドは 「許されざる者」の暴力の暴走から、「グラン・トリノ」(08年)では暴力の 連鎖を断ち切る道を探るが、この監督30作目では、究極の「赦しを新たなパワー にする」世界をストレートに熱く描いている。

 肉体を鍛えてキャプテン役に臨んだマット・デイモンも、リーダーのあるべき 姿を示していてすがすがしい。スポーツ本来が持つ感動が、マンデラの政治家と しての”したたかさ”と絡み合って、世界を変える力になった。とはいえ南アの現 状は、決してハッピーではない。

 チームのメンバーがマンデラの収監されていた独房を訪れシーンが忘れられない。幅2m、奥行き2.5mの狭さに身が震える。そこでマンデラは決してあきらめなかった。タイトルのインビクタス(征服されない)は彼の心の支えた英国人の詩だ。胸にトゲは刺さったままだ。(直)
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